骨の中に金属などを埋め込むことを総称してインプラントと呼びます。
材料として金、サファイア、鉄、ステンレス、アルミニウムなど多様な素材が使われてきましたが、どれも良好な結果が得られずに淘汰されていきました。
しかし、1965年にスウェーデンのブローネマルク教授が開発したチタン製のインプラントは驚くべき成果をあげ、最初に治療を受けた患者さんは、40年以上も安定した状態で使われていました。
10年以上に渡って、機能しているインプラントは96%以上であり、症例としては98.5%です。
これはチタンが骨と結合するという特質をもっていたからで、この特質がある限りチタンがインプラントの主流であることは永遠だと考えられます。
その代表的なものが「ブローネマルクシステム」です。
インプラントは次の3つのパーツから構成されています。
インプラント治療には基本的にフィクスチャーを埋め込むときと、アバットメントを取り付けるときの2回の手術が必要です。
30年以上前から、最新治療として「1回だけで」とか、「当日歯がはいります」と言ううたい文句がありますが、成功率や確実性が高いのは2回法です。
入 れ歯は歯ぐきにあわせて作った床と呼ばれる土台の上に人工に歯を取り付け、その土台ごと歯ぐきの上に乗せて使いますが、インプラント(implant=植 え付けるの意)は人工歯根療法とも言われ、失ってしまった歯がもともとその根に当たる部分を埋めていたあごの骨に人工の歯根を埋め、その上に人工の歯を固 定するための土台とするものです。
入れ歯は歯ぐきにかぶせて乗せただけであるため口の中で動き易く不安定で違和感を強く感 じさせがちですが、インプラントにするとあごの骨に直接固定されて支えられ、自分の歯がかつてそうであったように人工の歯で噛む振動がそのまま骨にも伝わ り自然な身体の一部のように感じることができます。
また、感覚面だけではなく、歯が抜けてしまうとその後、歯根が埋まっていたあごの骨もだんだんやせて少なくなっていき、ぴったり合わせて作った入れ歯も隙間ができるようになり、その上、入れ歯が歯ぐきにぶつかるその刺激に反応してますますあごの骨がやせ細ってしまいます。
この点もインプラントにすると骨の減少を防ぎかえって骨の代謝を促し、健康なあごの状態の維持につながります。
イ ンプラントが人間の身体にとって異物である人工材料を使っているのにもかかわらず身体に受け入れられるのは、人工歯根がただ単に骨に埋められているだけで なく、あごの骨と直接結合して、まるで生きている骨として取り込まれたように安定した状態になるためです。インプラント治療が成功した場合には、「自分の 歯のような感覚」で使えるようになります。
しかし、インプラント治療の成功率は残念ながら100%ではありません。部位に よっても異なりますが、およそ97%だと言われています。失敗というのは骨と結合しないという事です。これは人間の身体がもつ生体的防衛反応、つまり拒絶 反応によるものだと考えられます。人間の身体には異物が体内に侵入した場合に、それを外に排せつしようという働きがあるからです。
インプラントも例外ではありません。身体がインプラントを異物だと判断すれば、骨と結合しないのです。
では、異物だと判断させない為にはどうすればよいのでしょうか。それは、無菌的に処置をするということです。具体的には無菌室に近い手術室を使用することや、使い捨ての器具を使用することなどです。
歯を1本失った場合、両隣の健康な歯を削って人工の歯をかぶせます。健康だった歯は、1/3の大きさにまで削られてしまいます。これが、ブリッジと呼ばれる治療法です。また、奥に歯がない場合は、金属製のバネで入れ歯を支えます。
噛むという行為は、想像以上に強い力を、歯とあごにかけています(奥歯1本にかかる荷重は、その人の体重にほぼ等しいと言われます)。
ブリッジでは、1本あたりにかかる荷重は約1.5倍になります。削られた歯は傷みやすく、この歯がだめになってしまうと、さらに広い範囲のブリッジに作り直さなければなりません。
歯根がない部分の骨は、噛むことによって得られる刺激がないために次第に痩せていきます。また、残っている歯根が移動してしまうため、ぴったり合わせて 作った義歯は次第に合わなくなり、何度も作り直す必要が出てきます。
◆両隣の健康な歯を削って人工の歯をかぶせる場合 |
◆奥に歯がなく、金属製のバネで入れ歯を支える場合 |
◆総入れ歯の場合 |
失われた歯根の部分にチタン製の歯根を埋め込んで義歯の支えとするのが、今日行われているインプラント(人工歯根)療法です。
この治療法では、残っている健康な歯への負担が増加することはありません。
あごの骨には自然の歯と同じように刺激が伝わり、力をかけることができることから、骨の変化も少なくなることが知られています。
インプラント治療では、ブリッジ治療のように両隣の健康な歯を削る必要がないため、両隣の歯はそのままで負担がかかりません。
また、歯を失った所にインプラントを固定して人工の歯を作りますので、従来の入れ歯のように取り外す必要がありませんので、見栄えも美しく、清掃も難しくありません。
義歯はあごの骨に固定されるため力を入れて噛むことができ、食感も天然歯に近く、食べる楽しみを取り戻すことが出来ます。
インプラント治療が制限されるケース
インプラント治療が適用できないケース
どの治療方法にもメリットやデメリットがあるため、何を優先するかで治療法はかわります。
インプラント |
ブリッジ |
部分義歯 |
総義歯 |
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対応できる本数 | 1本〜すべて失った方に対応可 | 数本失った方 | すべて失った方 | |
歯・顎への影響 | 機能回復できる | 両側の健康な歯を削る必要があり支える歯への負担は大きい | とめ金部分を削る場合もあり支える歯への負担は大きい 顎の骨の吸収がすすみやすい |
顎の骨の吸収がすすみやすい |
審美 | 天然歯に近い修復 | 保険外材料の選択により天然歯に近い修復 | 針金のとめ具が見える部分もある | 顎の骨が退化して口元にシワがよりやすい |
費用 | 保険適応外 | 保険適応外と健康保険適応(材料の選択によっては高額になる) | ||
お手入れ | 天然歯と同じ | 食事のカスが詰まりやすい・スーパーフロス・歯間ブラシ等で清掃 | はずして義歯の洗浄支える歯も清掃 | 義歯洗浄・口腔粘膜も清掃 |
治療期間 | 顎骨の状態によるが4ヶ月〜1年以上噛み合わせ(咬み合わせ)のチェックが必要 | 周囲の歯の状態によるが1ヶ月〜3ヶ月前後装着後も調整要 | 1ヶ月前後で作製装着後も調整要 | |
欠点 | 外科手術が必要 | 空気がもれて発音が困難になることがある | 違和感を感じやすいズレ・すべりが生じやすい | 違和感を感じやすいズレ・すべりが生じやすい |
ブローネマルク教授
スウェーデンの学者ペル・イングヴァール・ブローネマルク教授は、純チタンと骨の組織がよく結合することを発見し、1965年臨床応用をスタートしました。最初の患者さんは40年以上安定した状態で使われました。
以来、もっとも信頼性の高い歯科インプラントとして世界中で100万人以上の人々が治療を受けています。現在、チタンは人工心臓や人工関節、骨折治療など、医科でも利用されています。